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ひとりの少女のブレイブ・ストーリー|アーシュラ・K・ル=グイン作『ヴォイス 西のはての年代記Ⅱ』

2016.8.6

原題は The Annals of the Western Shore “Voices”

 西のはての年代記は3部作。Ⅰ『ギフト』。Ⅱがこの『ヴォイス』。Ⅲは『パワー』。
 Ⅰの主人公はどの部にも顔を出すが、それぞれ別のお話。このヴォイスだけ、女性(少女)が主人公。だからというわけでもないのかもしれないけど、他の2部とは違っていると感じる。暗さとか重さとか。

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あらすじ

 自由人の都市アンサルは、砂漠の国から来たオルド人によって侵略され、欲しいままに略奪・破壊・強姦が行われた。メマーは略奪の落とし子として生まれる。父親代わりであり尊敬する“道の長”が拷問にかけられたこと、略奪によって貧しくなったアンサル、母の死、自身の出自もあって、メマーは8歳ですでに復讐を誓っている。オルド人たちが特に忌み嫌ったのは書物。館には、道の長とメマーしか知らない秘密の部屋があった。
 メマー17歳。オルド人に招かれた語り人オレック(3部作の最初の主人公)、その連れグライの二人と出会う。オレックの代表作は『自由』。秘密裏に進められていた抵抗運動が始動する。
 半ば巻き込まれる形となったオレックたち。メマーは彼らについて行き、不本意ながらもオルド人たちをそばで見聞きし、知り合いもする。ほどなく、革命が起こる。
 最初の作戦の不首尾、オルド人内の裏切り、メマーに与えられたお告げ、混乱を経て、和解が決まる。アンサルは再生への道を歩み始め、メマーはグライに一緒に来ないかと誘われる。

物語の輪郭

主人公が○○する話』で言うなら?

  • 主人公が、お告げの読み手になる話。
  • 主人公が、創り人と出会う話。
  • 主人公が、解放に立ちあう話。
  • 主人公が、生き延びる話。
  • 主人公が、希望を持つ話。

上記に『いつ・どこで・誰と・何を・どのように』を補足してまとめると?

 限られた人は不思議な力を持っている世界の、占領された都市。メマーは9歳にして、道の長と禁じられた書物を保管する部屋という秘密を分け合った。17歳で市民が蜂起する中、メマーは道の長からもう一つの秘密、お告げの“読み手”を受け継ぐ。

好きポイントは?

  • 本が隠されている、秘密の部屋の薄明るく静かな雰囲気。
  • 登場人物の素朴さと誠実さ。
  • 復讐を誓いながらも、出会った人や物をフェアに判断しようとするところ。
  • テーマは重いけれど、悲愴感漂ったりしてないところ。
  • 不思議なことを大げさに扱っていないところ。
  • 主人公の健気な様子。以下の引用部分。

六歳のときの勇敢さを失い、それでも、勇気と強さと、恐怖に立ち向かえる力をもちたいと強く願っていた、この十五歳の少女。

主人公の欲求・価値観・能力は?

欲求

 復讐。オルド人を皆殺しにすること。一生憎み続けること。
 知識欲。禁じられているが、文字・本を読むことを望み、道の長から習う。

価値観

 たくさんいる神様たちや、身内を大切にしている。特に道の長との絆は重要。
 誠実さに価値を置いているようだ。長が質問をはぐらかしたのをよく思わなかったり、敵であろうとも知り合った相手に対しては罪悪感を持ったりしている。

能力

 読み書きを学ぶでも、自分と違う考え方でも、ぐんぐん吸収していく。器量が大きいという言い方でいいのかな?
 行動力がある。
 状況を冷静に判断する力もある。

読後に思ったこと

 25歳のメマーが8歳からのできごとを書き記す形で始められている。ル=グインは、女性の主人公には、男性主人公より雄弁に語らせるみたい。しかも、生活感のある物語になる。ゲド戦記シリーズのテナーのおっかさんぶりとか好き。
 占領されて支配下に置かれた街の荒廃、人々の疲弊、オルド人の暴力をさらりとした感じで書いてある。秘めた怒りを燃やしている少女の目線だからかな。若さは、灰色には染まりにくいよね。
 メマーの成長していくようすには、心打たれる。違う価値観に抗いながらも、理解していく。人は、敵であっても人なのだと知っていく。自身のたてた誓いをさえ破っていける強さが、彼女にはある。しなやかな強さ。こんなふうに しなやかでありたいと思う。また、自身を縛る“復讐”を破棄していくさまは、まるで蛹から飛び立つ蝶のようだ。きっと、物静かで深みのある女性へと成長していくんだろうな。